【化学熱力学】ヘルムホルツ自由エネルギーはいつ使うのか?

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どうもこんにちは、サブです。久々の投稿となりました。今回は、化学科の授業(化学熱力学)では必ず出てくるであろう、ヘルムホルツ自由エネルギーについてのお話です。

日頃の化学科生の間では、化学反応が進行するかどうか議論する際、「この反応はギブズ自由エネルギーが減少するから進行する」という文言がほぼ必ず出てきます。… でも、「この反応はヘルムホルツ自由エネルギーが減少するから進行する」という会話はほぼしないのではないでしょうか?そんなこんなでヘルムホルツ自由エネルギーをいつしか忘れてしまっている方も大勢いらっしゃると思います。もちろん化学反応の条件によっては、ヘルムホルツ自由エネルギーが減少するように反応が進行することもあります。今回は、そのような条件について今一度整理しようと思います。

熱力学第一法則から始まります。熱力学第一法則とは、

『物質のやりとりが外界と無い、閉じた系がある平衡状態Aから別の平衡状態Bに移る際、系が系外から吸収する熱量q系が系外からされる仕事wの和は状態量となる』

(平衡状態とは、「落ち着いた状態」のことです。例えば、外出から帰ってきて手を洗うなどしてそれから一息つくために椅子に座るとします。この「一息ついた状態」が平衡状態と思ってもらうといいです)

ということであり、この和をAからBへの内部エネルギーの変化ΔUと定義するのでした。つまり、

\varDelta U = q +w ①

です。

では次に、この式を変形していきます。それにはエントロピーSを導入します。Sは、可逆過程(準静的過程、つまり、平衡状態を保ったまま系を変化させていくこと。)においてのみ

dS= \frac{dq}{T} (T: 系の温度)

となります。不可逆過程では、

dS \gt \frac{dq}{T} (T: 系外の温度)

となります(このTについては下の注を参照)(太字で強調した部分は忘れられやすいです。またエントロピーについては詳しくまとめます)。

今、定温(←系外の温度が)不可逆過程を考えてみましょう。すると、上の式の両辺を平衡状態Aから平衡状態Bまで積分してあげると、

S(B)\gt \int_{A}^B \frac{dq}{T}+S(A)

つまり、

\varDelta S \gt \int_{A}^B \frac{dq}{T}=\frac{q}{T}

となります。この式を①式に代入して系が外界から吸収する熱量qを消去すると、

\varDelta U - w \lt T \varDelta S ②

となります。ではいよいよここでヘルムホルツ自由エネルギーAを定義してみましょう。

A=U-TS

です。すると、定温過程であることを考えると、②式は

\varDelta A \lt w ③

となります。

では最後に、系が外界からされる仕事wについて考えてみます。本来wとしては、様々なものが考えられます。電気的な仕事、静電気的な反発による仕事、摩擦による仕事、などです。しかしここでは、wとしては系の体積変化による仕事のみを考えてみることにします。つまり、

w = - \int_{A}^B PdV

です(注. 今、AからBへの不可逆変化を想定しています。言うなれば、変化の最中、系内の状態は場所によってムラがあり(非平衡状態)、系内の状態量(Pや温度など)は確定できません。よって、圧力Pは系内での値ではなく、系外の値でなくてはいけません。また、このような非平衡状態について理論を構築する、非平衡統計力学という分野があります)。

加えて、定積変化であることも仮定しましょう。つまり、w = 0です。

すると、③式は、

\varDelta A \lt 0

となります。つまり、

平衡状態Aから平衡状態Bまでの変化で、系が外界からされる可能性のある仕事として系の体積変化によるものしかなく、定温定積不可逆変化を想定すると、ヘルムホルツ自由エネルギーが減少するような変化でないといけない

ということになります。ギブズ自由エネルギー云々は全く関係ありません!(ちなみにギブズ自由エネルギーが減少しなくてはいけないのは、系が外界からされる仕事が系の体積変化による仕事しかなく、定温定圧不可逆変化の場合です。ギブズ自由エネルギーについてもまたまとめようと思います。)(化学ではギブズエネルギー減少というワードがよく出てきますが、これは、化学の実験は多くが定温定圧下で行われていることに起因します)

〜ちなみに〜

上の記事で、不可逆過程でのエントロピーの不等式を示しましたが、もしdq = 0、つまり不可逆な断熱過程(系が外界から吸収する熱量が0ということは系は外界から熱的に遮断されており、つまり断熱されている)であった場合、反応の進行条件は

\varDelta S \gt 0 (AからBへの不可逆断熱変化)

となります。つまり、AからBへ移るためには断熱不可逆変化(定温である必要はない)ならばエントロピーが必ず増大しなくてはいけないということです。逆に、断熱変化でなければエントロピーが増大しなくとも自発的にAからBに移ることができる、ということです(上で述べたような定温定積不可逆変化ならば、エントロピー増大ではなく、ヘルムホルツ自由エネルギーが減少することが重要ですし、定温定圧不可逆変化ならばギブズ自由エネルギーの減少が重要です)。