【学生実験】TLCのコツ(薄層クロマトグラフィー)

化学科生なら一度は「TLC コツ」とか「TLC 展開溶媒 目安」などで検索したことがあると思います。

しかし、出てくるのはTLCの原理を説明している記事ばかりで、本当にみなさんが知りたい実験テクニックやTips的な情報はなかなか出てきません。

そこで今回は、化学科生の一員として半年に及ぶ学生実験の末見出した実践的なテクニックをご紹介したいと思います。

色々試行錯誤しながら自力でコツを掴んでいくことは大切だと思いますが、知っているのと知らないのとでは実験初日の安心感が全然違うと思いますので。

大まかな流れ

実験中、反応の進行具合を確認するため、三口フラスコや三角フラスコの内容物を定期的に取得します。

TLCで反応前の出発物質との3点打ちによって、出発物質がどれくらい消費されたか確認します。

全体の流れは次のようになります。

まず、反応を開始する前に出発物質の入った溶液を1滴取得します。反応を始める前というのは、出発物質を溶媒に溶かした後で次の試薬を投入または滴下する前です。

試薬を混ぜた直後の反応液も採集しておきましょう。これが反応開始後0分目のサンプルということになります。時間をかけて滴下する実験の場合、全ての試薬が滴下された後に取得します。

今後も反応開始後5分目、10分目、20分目、40分目などで1滴ずつ取得します。時間はそれぞれの反応によって異なりますが、2倍ずつにしていくことが多いです。

取得した反応液は大体の場合ヘキサンで薄めます。反応液1滴に対してヘキサン1mLくらいが目安です。薄める理由は、溶液が濃すぎるとTLCを取った際に長い尾を引いて、読み取るのが難しくなるからです。加えるヘキサンの量を決めておいて再現性良く薄めると、TLCのスポットの濃淡で、経過時間ごとの試薬の残量を相対的に比較できます。

使っている試薬によって、ヘキサン以外の溶媒を使用することもあります。また、水とヘキサンを入れて、ヘキサン層(上層)を使うといった操作もありますので、そういった特殊な操作は学生実験のテキストに従って行ってください。

次に薄めた反応液をキャピラリーでTLC板に打ち付け、展開溶媒に立てかけて展開します。

展開後にUVランプを照射してスポットの位置を確認し、鉛筆で輪郭をなぞります。

染色液を吹きかけてホットプレートで焼いて完成です。実験ノートに打ったサンプルとサンプルの調整方法(薄め方など)、展開溶媒、染色液、TLC板のスケッチ(染まった色と濃淡、テーリングの様子も詳しく)を記載しておきましょう。

おすすめの展開溶媒

展開溶媒は多くの場合、酢酸エチルとヘキサンを混ぜて作ります。一番上のスポットのRf値(展開溶媒の進んだ距離に対するスポットの進んだ距離の比)が0.6~0.7くらいになるように極性を調節します。

経験上、まずはじめに酢酸エチル:ヘキサン=1:4(「さいへし」と心の中では呼んでいます)を試すのがおすすめです。極性が高すぎたら=スポットが上端ギリギリまで来ていたら、1:5、1:6と極性を下げていきます。反対にスポットが全然進んでいない場合は2:3、3:2と極性をあげます。

ヘキサンはあまり気にしなくて良いのですが、酢酸エチルは反応液に含まれる試薬と反応することがあります。この場合、エーテルやクロロホルムなどで代用します。

キャピラリーの共洗い

TLC板にサンプルを打ち付けるのに使用するキャピラリー(細いガラス管)は基本的に使いまわします。

共洗いのやり方を紹介します。

前のサンプルを打ち付けた後、キャピラリーに残っているサンプルをキムワイプに吸い取らせます。キャピラリーの先をキムワイプにつけると中の液がスーッと落ちていきます。

この操作は始めのうちは結構苦戦するかと思います。キャピラリーの先端の形状にも左右されるので、どうしてもうまく落ちない場合は、先端を折って新しい先端を作ります。ギザギザしていないほうがいいです。

前のサンプルの残りを落としたら、次にヘキサンを吸い取ってキムワイプに吐き出す操作を数回行い、これから打ち付けるサンプルについても数回同じ操作をします。洗浄と共洗いは2回くらいずつやれば十分でしょう。

事前に準備しておくもの

反応液を取得してサンプルを作るためのバイアル瓶をたくさん用意しておきます。バイアル瓶とは、ガラスやプラスチック製の小瓶のことです。耐腐食性の観点から有機化学ではガラス製のものを主に使用します。

バイアル瓶は反応液を取得するたびに1個必要になるので、余裕を持って多めに洗っておきましょう。

反応液を薄めるときと、キャピラリーを洗うときなど、頻繁にヘキサンを使うので、小さな三角フラスコ(30mLとか)に20mLくらいとってドラフトに置いておくと便利です。

薄めるときに使うヘキサンにサンプルのついたキャピラリーを突っ込むに抵抗がある方は、ヘキサンのフラスコを2つ用意しておくといいでしょう。私は同じヘキサンを使っていました。

キャピラリーに付着する溶液はわずかですし、空のキャピラリーを液につけると吸い込まれていくのでそんなに混ざらないかなと思ってます。これによってTLCが変になることはありませんでした。

ピペットはヘキサン用と反応液用で2つ用意しておきます。これも、tn分目の反応液が付着したピペットをtn+1分目の反応液に突っ込むのが嫌な方は、ピペットを毎回洗うかたくさん用意しておきます。

個人的には、キャピラリーは若干太めがおすすめです。細すぎると、中の毛細管の張力が強くてなかなか液が出てこないことがあります。ただし、太すぎるとTLC板に打ち付けたときのドットが大きくなります。外径が0.5mmシャー芯くらいの太さのものが私は好きでした。