ETFが指標と連動する仕組み

ETF(上場投資信託)は多くの投資家から資金を集めて運用する投資信託という金融商品を上場させ、株式と同じ仕組みで売り買いできるようにしたものです。

ETFの多くはS&P500や日経平均などの指標に連動するよう運用され、S&P500連動ETFなら米国株、日経平均連動ETFなら日本株の詰め合わせパックを買っているような感覚で間違いありません。

ETFの仕組みについて少し調べてみると、なぜETFの価格が指標に連動するか疑問が生じる方も多いと思われます。

初心者向けに丁寧に解説しているサイトはあまりなく、指定参加者、マーケットメーカーなどの聞き慣れない用語も、状況をより分かりづらくしています。

結論としては、「マーケットメーカーがETFが買われすぎなときには売り手にまわり、売られすぎのときには買い手にまわるから」ということになりますが、マーケットメーカーがなぜこのような動きをするのかを理解するためには、ETFを取引する他のプレイヤーの動きも理解しておく必要があります。

そこでこの記事では、ETFを取引するプレイヤー達のそれぞれの仕事と思惑を丁寧に解説させていただきます。

それぞれのプレイヤーが自分のために動いていれば、ETFの価格は適正に保たれるという仕組みになっているので、各プレイヤーの動きを把握するとETFの仕組み全体が理解できます。

少し長めにはなってしまいますが、この記事を読み終わる頃にはETFの仕組みを完全に理解していると思いますので是非最後までご覧ください。

ETFを取引するプレイヤーたち

投資家

この記事を読んでくださっている方の多くはこれから投資を始めたいと思っている方や、すでに投資を始めていてもっと勉強したいと思っている個人投資家の方だと思います。

私達個人投資家は、証券取引所で流通しているETFを証券会社を通じて購入します。

ETFは株式の詰め合わせパックなので、1口であっても資産を様々な株に分散させる効果があります。このため、分散投資を好む安全志向の投資家から人気がある商品です。

多くのETFは年に数回組み込み銘柄のリバランシングを行います。

個別株投資の場合多くの企業の業績を自分で評価しなければならず、リバランシングには結構な手間がかかります。

したがって、副業として投資をされていて投資にあまり時間をさけないという方には特に、ETFは魅力的に映るでしょう。

その代わり、投資家はETFの運営会社に幾許かの手数料を支払います。この手数料は経費率と呼ばれ、運営資金に対する%で表されます。優良ETFの経費率は0.1%未満のことがほとんどです。

手数料を支払うと言っても、証券口座から直接引き落とされるようなことではなく、運営資金から手数料が差し引かれた分、ETFの価格が下がるという形で手数料を負担しています。

言い換えると、ETFの価格は手数料の分を織り込んで、すでに下落済みの値ということになります。

投資家の動きまとめ

  • 投資家は次の2つの理由でETFを購入する
  • ETFなら少額で購入しても分散投資ができるので個別株より魅力的
  • ETFならリバランシングに自分の時間を割かずに済む

運営会社

運営会社は投資家から集めた莫大なお金で株式現物を買って、資金を運用している会社です。

企業の業績の分析や組入銘柄の選定及び更新を担当しています。運営会社は投資家のところでも述べたとおり、経費率と呼ばれる手数料で儲けています。

厳密には資金を管理して株式を売買する組織と、運用の方向性や組入銘柄を決める組織は別なのですが、ETFの価格が決まる仕組みとはあまり関係がないので、今回はこのことについて深く考えません。

S&P500連動ETFなどのインデックスETFの場合、参照している指標の組入比率とほぼ同じ比率で株式を買って運用しています。

他にもS&P500への組入銘柄のうち高配当株に絞って運用したり、ハイテク株のみで構成したりと様々な性格のETFがあります。

運営会社の動きまとめ

  • 運営会社は多くの投資家から莫大な資金集めて資産運用を行う
  • リバランシングなどの業務を引き受ける代わりに投資家から手数料を取る

指定参加者

この指定参加者と次に説明するマーケットメーカーが、ETFの価格が指標通りに動くように調節している裏の主役です。

指定参加者とは、その資格を与えられた一部の証券会社のことを指します。

指定参加者になった証券会社は、ETFの運営会社が決めた組入銘柄をその比率の通りに調達し、株式現物の詰め合わせをETFに交換してもらうことができます。

株式現物の詰め合わせのことをバスケットと呼び、バスケットをETFに交換してもらうことを設定といいます

反対にETFをバスケットに交換してもらう事もできます。このことを解約といいます。

保険会社や年金機構などの機関投資家は、何十億ときには何百億円の単位で取引をします。

ETFでこのような大量の買い注文があったとき、証券市場で調達することが困難になる場合があります。

このとき、証券会社は組入銘柄を直接購入して、新たにETFを設定することで買付に対応しているのです。

また、下で説明するマーケットメーカーからも設定・解約の注文を受け付けます。指定参加者はETFの設定・解約の業務に対して手数料をとって稼いでいます。

指定参加者の動きまとめ

  • 指定参加者はETFの設定と解約ができる
  • 指定参加者になれた証券会社は大口の買付注文に対応でき、高い手数料が見込める
  • マーケットメーカーからの設定・解約依頼を処理し、手数料を取る

マーケットメーカー

ETFの正体は株式のバスケットですから、ETFの価格は、各株式の価格の組入比率に対応した加重平均と一致すべきです。

しかし、ETFの価格はETFそのものの需要と供給の影響も受けるので、そのETFが人気のときは価格が上昇し、不人気のときには下落します。

すると、ETF全く同じ価値を持つはずのバスケットとで価格差が生じます。マーケットメーカーはこの差額で稼いでいるのです。

このことについては、具体例を見てみるのが分かりやすいです。

まず、そのETFがとても人気で、ETFの価格がバスケットの価格より高くなったとしましょう。

すると、マーケットメーカーは株式市場で株を買い揃えて、指定参加者に設定の注文をします。

指定参加者は運営会社にマーケットメーカーから預かったバスケットとETFを交換してもらい、ETFをマーケットメーカーに渡します。

マーケットメーカーは手にしたETFをETFとしての価格で売ることで利益が出るというわけです。このとき、指定参加者はETFの設定に伴いマーケットメーカーから手数料を受け取っています。

マーケットメーカーも指定参加者もきちんと儲かっていますね。

反対にETFの価格がバスケットの価格より低い場合は、マーケットメーカーはETFを購入してこれをバスケットに交換してもらい、株式の価格で売ることで利益を得ます。

つまり、マーケットメーカーはETFが買われすぎのときにはETFの総口数を増やす動きをし、反対に売られすぎのときには総口数を減らす動きをするというわけです。

マーケットメーカーがこのような動きをするため、ETFの価格はだいたいバスケットの価格通りに推移していきます。

したがって、ETFの組入比率がとある指標と同じなら、ETFの価格はその指標に連動するという仕組みになっています。

マーケットメーカーの動きまとめ

  • マーケットメーカーはETFの価格とバスケットの価格の差で儲ける
  • ETFのほうが高いときにはバスケットを買ってETFとして売り、バスケットのほうが高いときにはETFを買ってバスケットとして売る
  • マーケットメーカーは自分で設定と解約ができないので、指定参加者に手数料を払ってやってもらう
  • マーケットメーカーが自分の利益のために動くことで、ETFの総口数が需給に合わせて適切に増減し、価格は指標と連動する

まとめ

この記事では、ETFを取引する全4者のプレイヤーの思惑と動きを解説しました。

初めに提起した疑問、「ETFの価格はどうやって指標と連動するのか」に対する答えは、「マーケットメーカーがETFが買われすぎなときには売り手にまわり、売られすぎのときには買い手にまわるから」ということになります。

この記事が読者の皆様にとって少しでも役に立てたなら幸いです。