分子生物学まとめてみた「生化学の基礎」

生化学の基礎

19世紀までは生物には特別な力と法則があると思われていたが、今では物理と化学の法則に従うことが知られている。細胞を1つの化学系と見たときの特徴は

  • 組成はH, C, N, Oが99%を占める
  • 水中での有機化学反応が主である
  • 膨大な種類の分子と反応が入り乱れており、途方もなく複雑である

4つの結合と水中での結合強度の目安

共有結合377kJ/mol
イオン結合12.6kJ/mol
水素結合4.2kJ/mol
ファンデルワールス結合0.4kJ/mol

共有結合は生物の文脈においては非常に強く、体温下の熱運動で勝手に切れることはないと考えて良い。イオン結合、水素結合は水中では水分子が割り込めるため弱いことに注意。イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合をまとめて非共有結合と呼ぶ。非共有結合は単体では原子の相対位置を固定するほど強くはなく、相補的な表面を持つ巨大分子間で多数形成されたときだけ強固になる。

共有結合が生成・切断されようとする反応の遷移状態は不安定。つまり、活性化エネルギーが高いため、酵素が触媒しない限り、そのような反応は起こらないと考えて良い。

DNAやタンパク質などの巨大分子は、構成単位の小分子が脱水縮合することで作られる。脱水縮合より加水分解のほうがエネルギー的に起きやすい反応なので、縮合には自由エネルギーを消費しなければならない。構成単位(ヌクレオチド、アミノ酸、単糖)から巨大分子(タンパク質、RNA)への反応はエネルギーを使っているが、巨大分子の折りたたみや集合は自発的に起こる。共有結合が切れない範囲で自由に回転して、最も安定な配座をとるのだ。多糖、核酸、タンパク質への重合には、ちょうどATPの加水分解で得られる程度の自由エネルギーが必要とされる。

細胞内での分子運動に関する正しいイメージ

  • 大きな球状タンパクの自転速度は毎秒100万回転(!)程度。
  • 基質となる小分子は10μmを0.2sで移動できる。(細胞の直径は15μmくらい)
  • 基質濃度が0.5mMなら1個の酵素の活性部位には毎秒50万回くらい基質が衝突する。正しい部位に正しい角度から衝突したときのみ反応が起こって、結局50万回のうち数千回程度の割合で反応が起こる。

反応前後の自由エネルギー変化と平衡定数の関係

\Delta G ^○=-RT \ln{K}

自由エネルギー変化と平衡定数の対数が線形関係なので、自由エネルギーが少しだけ変わっても平衡定数は大きく変化する。あるタンパク質が別のタンパク質と集合したときの自由エネルギー変化が-17.8kJ/mol(水素結合4~5個分の安定化)なら、複合体のほうが単量体に比べて1000倍の濃度で存在している。ただしTはヒトの体温に近い310Kを用いた。

活性型運搬体とは酵素がエネルギー的に不利な反応を起こすときに消費される自由エネルギーを輸送する小分子。補酵素とも呼ばれる。転移の容易な基か、高エネルギー電子として自由エネルギーを蓄えている。

  • ATP:46~54kJ/molのエネルギーを供給する。ATPの加水分解と基質の脱水縮合を共役させる例がよく知られている。酵素はATPを加水分解して不利な反応を進めたり、力学的な仕事をしたりする。ATP加水分解酵素はATPアーゼと呼ばれる。
  • NADH, NADPH:ニコチンアミド環を持つジヌクレオチドで、ヒドリドを運搬する。ニコチンアミド環からヒドリドが抜けるときにエネルギーも放出するため、ヒドリドと同時にエネルギーを運搬していることになる。NADHとNADPHの違いは内部の糖にリン酸が1個くっついているかどうかで、この部位はニコチンアミド環からは遠いので、反応の成績にはほとんど影響しない。酵素がNADHかNADPHか識別するときに使う。
  • アセチルCoA:CoAは補酵素(coenzyme)Aの意味。S原子にくっついたアセチル基としてエネルギーを運搬する。
  • カルボキシル化ビオチン:カルボキシ基を持つ。
  • S-アデノシルメチオニン:メチル基運搬体。
  • ウリジン二リン酸グルコース:グルコース運搬体。

ATP, NAD(P)H, アセチルCoAが特に重要で、後は色々な運搬体があるんだなといった程度に認識しておいて、また出てきたときに詳しい構造は参照すればいいだろう。

NADHは異化のときに使われる。食物から取り込んだ分子を酸化するために使うので、細胞内ではNAD+の濃度を高く保つ必要がある。一方NADPHは同化の際に用いられる。還元剤として働かせるために、NADPHのほうが高濃度である。もし、NADHかNADPHかのどちらか一方しか使っていなかったとしたら、このような役割分担は不可能だろう。

活性型運搬体は取っ手部分にヌクレオチドを含むことが多い。進化の初期にRNAが酵素としてよく用いられていた頃、リボザイム(RNA酵素)との結合にこの塩基部分が役に立っていたかもしれない。

異化の全体像

細胞質での解糖により、グルコース(6C)は2分子のピルビン酸(3C)となり、この過程でATPとNADHを2個ずつ作っている。ピルビン酸はミトコンドリアで続く反応の基質となり、エネルギーはアセチルCoAにアセチル基(2C)として蓄えられ、CO2を1個放出する。アセチルCoAのアセチル基はクエン酸回路でCO2まで酸化され、エネルギーは3×NADH、FADH2(これもヒドリド運搬体の1つ)、GTPに保存される。脂肪酸はミトコンドリアで2炭素ごとにアセチルCoAのアセチル基として切り取られ、クエン酸回路に合流する。一部のアミノ酸は分解されてクエン酸回路の中間体となって、合流する。解糖とクエン酸回路で生じたNADHとFADH2に蓄えられたエネルギーは、最終的にミトコンドリアの内膜を挟む電子伝達系でATPに保存される。

解糖やクエン酸回路の中間体は、細胞内で使われる他の小分子を合成するための出発物質にもなる。したがって解糖とクエン酸回路は、生合成においてハブのような役割を果たしているといえる。

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