分子生物学まとめてみた「DNAと染色体」

DNAと染色体

DNA

DNAの二重螺旋は10.4残基ごとに一巻きする。塩基部分は平面で、塩基対も平面構造をとっている。 ヒトの細胞1つ分のDNAを全て繋げると2mくらいだがそれが直径6μmの核にきっちり収まっているのは、タンパク質がDNAに非共有結合して、緻密なコイルやループを形成・維持しているからである。しかし、DNAがきっちり折りたたまっているのにも関わらず、多くの酵素が接近可能で、反応が起こる。これらの酵素が入り込める程度の隙間は空いてるのだ。

核の構造:核膜は二重の膜で、所々大きな孔があり、分子が行き来できる。核膜の脂質二重層は細胞質側に広がりを持ち、そのまま小胞体になっている。核膜の核内部側には中間経フィラメントの網があって、フェルトのような層を形成して核の形を支えている。

真核生物のDNAには非転写領域がとても多い。こういった領域は特に重要な意味を持たない、つまりあってもなくても生存可能性には特に影響しない。そういった領域が変異を受けた場合、自然選択を受けずに残って、これが積み重なると近縁の種間でも配列が大きく異なることや、非転写領域の長さ自体がかなり違うこともある。また、遺伝子の染色体への割当が、近縁の種間で全く異なることもある。各遺伝子が、どの染色体にどういう順番で並んでいようと、その遺伝子産物が適切に発現するなら特に問題は無いということだろう。

ヒストン

真核生物のDNAはヒストンタンパクに巻き付いている。ヒストンは8量体のタンパク質である。ヒストンと巻き付いたDNA、リンカーDNAをあわせてヌクレオソームと呼ぶ。ヒストンのペプチド主鎖とDNAの糖-リン酸主鎖との間で142個もの水素結合が形成される。電荷も、DNAのリン酸の負電荷とヒストンのリシンやアルギニンの正電荷がちょうど近接するように配置されている。表面の形を見ると凹凸がよく一致しているのが分かる。DNAの主鎖との相互作用が主なので、どのような塩基配列であってもヒストンに巻き付くことができる。多少塩基配列との相性もあるようだが、エネルギー的にはそこまで重要ではないと考えられる。とはいえ、塩基配列の相性で特に強固にヒストンに巻き付く領域も知られている。

DNAは自然の状態でも1秒あたり4回ほどヒストンから外れ、10-50ms程度外れた状態を維持した後、また巻き付く。ATP依存クロマチン再構成複合体は自由エネルギーを消費して、DNAとヒストンの相対位置を変える。この結果、ヌクレオソームが緩まり、これを繰り返すことでヌクレオソームスライドを引き起こすことができる。数十種類のATP依存クロマチン再構成複合体が知られている。

タンパク質の中にはDNAの特定の配列部分に非共有結合して、ヌクレオソームの構造に影響を及ぼすものもいる。DNA上のヌクレオソームの位置は極めて動的かつ多様で、よく調節されているを覚えておこう。

ヌクレオソームは更に高次構造を作っている。この構造はそこまで規則的ではないらしい。ヒストンタンパクにはいくつかの種類があって、当然この違いがヌクレオソームの高次構造に影響する。また、ヌクレオソームに非共有結合するタンパクや、ヒストンタンパクのN末端尾部のゆらゆらした長いひも(ランダムコイル)も凝縮クロマチンの安定性に関わっている。ヌクレオソームが凝縮した構造はクロマチン繊維と呼ばれる。ヘテロクロマチンと呼ばれる領域はさらに高度に凝縮しており、転写に関わるタンパク質が入り込めず、遺伝子発現が抑えられている。一方、ユークロマチンは比較的緩やかに凝縮している。2つの違いは光学顕微鏡で分かるほどである。重要なのは、ヘテロクロマチンの位置が細胞分裂のときに継承されるということである。この類の塩基配列に依らない次世代への情報継承はエピジェネティクスと呼ばれる。

ヒストンへの修飾

ヘテロクロマチンを構成するヒストンには特定の化学修飾が入っている。この修飾は近くのヒストンに同様の修飾を施すように関連するタンパクを呼び寄せる。このようにしてヘテロクロマチンの領域は自己増殖する。一方で、障壁配列と呼ばれるDNA領域には別のタンパク質が非共有結合して、その壁を超えてはヘテロクロマチンの修飾は伝播しない。ヘテロクロマチンの形成・抑制・安定化・継承に関わる遺伝子が100個以上知られている。

ヒストンタンパクへの共有結合による修飾が、クロマチンの性質(ヘテロクロマチンかユークロマチンか)を変化させる。まず、DANの特定の配列に非共有結合する翻訳調節タンパクが、ヒストンをヘテロクロマチンにするような修飾を施す。すると、ヘテロクロマチンを増殖させる関連タンパクと結合するようになり、周辺部位全体がヘテロクロマチンになるという順序である。

N末端のリシンへのアセチル基付加は、電荷を負から中性にして隣のヌクレオソームの尾部とのイオン結合を減らす。この結果クロマチン繊維は緩まり、転写が可能になるといった具合である。このようにして、クロマチンの構造がタンパクとの相互作用に影響し、遺伝情報の読み取れ方や頻度が変わることで発現を調節することができる。

ヒストンへの共有結合修飾により伝達される情報はヒストンコードと呼ばれる。コード読み取り複合体はこのコードを識別して結合し、書き込み複合体とも非共有結合することで隣のヒストンへの修飾を誘導している。ヒストンコードの操作の最中には、その前後のヌクレオソーム上でクロマチン再構成複合体も活躍する。

DNAの特定の配列を認識して非共有結合するタンパク質の中には、読み取り・書き込み・再構成複合体を呼び寄せてヒストンコードの操作を誘導したり、反対に仕事を邪魔したりするものがいる。

セントロメアのヒストンは通常とは異なる特殊ヒストンからなる。有糸分裂のときに、紡錘体への付着とDNAの移動に関わるタンパク質を集合させなければならず、この動作はセントロアのヒストンが主導している。セントロメアの位置を決める配列(アルファサテライト配列)が知られているが、真核生物の場合この配列の存在は十分条件ではないらしい。その他のタンパク質複合体によってセントロメアの位置が規定されていると考えられる。

セントロメアの形成に必要な特殊ヒストンは、DNAの複製の際に娘DNAに1/2ずつ配られる。DNA複製の際には一旦ヒストンを外す必要があるので、外れた特殊ヒストンはしばらくの間遊離して、ランダムに娘DNAに組み込まれる。足りない分は遊離している通常ヒストンが組み込まれ、後に特殊ヒストンに差し替えられる。

クロマチンの構造を変えて遺伝子の発現を調節するやり方は、調節タンパクによる調節と違い、ヒストン修飾タンパクがいなくなった後も結構長持ちするので、長期的な発現調節(細胞の分化など)に関わる。分化を終えた細胞の核を新生の卵に移植すると、多くの場合分化後のクロマチン構造がそのまま引き継がれ、その結果頓珍漢な発現をしてすぐに死ぬ。カエルの分化している細胞の核を、除核卵に移植したときに完全に正常なオタマジャクシが発生することから、分化で塩基配列は変化していないことを示す有名な実験が有るのだが、実は成体の核を使うとこの実験はうまく行かない。分化の程度が低い初期胚からの移植だと35%くらいが成功する。

クロマチン構造の寿命は様々である。セントロメアやヘテロクロマチンは何世代にも渡って安定に継承されるが、中には細胞分裂周期より短い間だけ持続する構造もある。

染色体

DNAはヒストンに巻き付いて染色体として凝集しているが、核全体に広がっているため光学顕微鏡で観察することはできない。有糸分裂の時には、染色体は特に密に凝集してよく見るX字型の構造が観察できる。この過程ではユークロマチンかヘテロクロマチンかによらず染色体全体を無差別に凝集させるのだが、これはヒストンへの修飾によって行われるのではなく、コヒーシンとコンデンシンと呼ばれるタンパク質の作用によるものである。染色体は普通分裂期にしか光学顕微鏡で観察できないが、極一部、特定種の特定細胞では間期に染色体を観察できるものがある。

  • 両生類卵母細胞のランプブラン染色体:凝縮したクロマチンの中にところどころ大きなループが形成される。凝縮しているところでは転写はあまり行われず、ループ部分では盛んに転写されている。ループは必ず特定の塩基配列の部分に作られる。配列を認識して結合するタンパク質がループ形成の開始点になっているのだろう。このループが観測されるときの細胞は4倍体である。あらゆる真核生物の間期染色体は同様のループを作っていると考えられるが、1つのループが小さすぎて光学顕微鏡では見えない。
  • ショウジョウバエの幼虫の唾腺細胞:この細胞は細胞分裂なしにDNAを複製して、数十万のコピーをもち、多糸染色体を形成する。多糸染色体中でDNAは配列を揃えて並んでいる。多糸染色体を染色液で染めると色の濃い部分と薄い部分ができるが、濃い部分はヘテロクロマチンのように密に凝縮していると考えられる。各染色体の色のバンドは詳しく調べられており、この模様だけで染色体を同定できる。遺伝子が盛んに転写されている領域はパフという膨らんだ領域になる。クロマチンの折りたたまれ方が重要で、50種類以上のクロマチン関連タンパクとヒストン修飾の位置が知られている。

ヒトには46本の染色体があるが、核内での大体の配置が決まっているらしい。クロマチンは幾何学で次元分裂球やフラクタル球と呼ばれる構造をとっている。この構造では、どの遺伝子座も緩んでループになることができ、かつ染色体全体としては非常に密に詰め込まれる。よく転写される領域はループ状に緩まるのだが、どちらかというと核の中央寄りの所で緩まり、転写されるらしい。核内での各染色体の縄張りのようなものが決まってはいるが、発現の要求に応じて各遺伝子座は移動しうる。

核内で、柔軟で長いペプチドやRNA分子がゆるく集合してゲル状の領域を作ることがある。リボソームRNAは常に必要でかつRNAが最終産物であるため、核内でひたすら転写され続けている。転写されて伸びてきたRNAや他のRNA、関連タンパクなどがゆるく凝集して独自の区画(核小体)を形成する。ここではリボソームRNAの加工まで行われる。

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