タンパク質の小器官への局在化
全ての真核細胞は、細胞膜以外に細胞内膜を持つ。内膜は膜の表面積を増やして膜上で起こる反応の場を広くするだけでなく、内部を細胞質から隔離することで特定の組成を保ち、目的の反応を促進させる。
小分子やタンパクの細胞内での輸送は、膜を横切る輸送と輸送小胞を介した方法に分けられる。後者の方法では、積み荷は細胞質と細胞外・小器官内腔の位相関係を保ったまま移動する。
各小器官はそれらが持つ特異的なタンパク質によって識別され、適切なタンパク質や小分子が運ばれてくる。輸送を受けるタンパクの方にも行き先を示すシグナルがあることがあり、この配列はN末端にあることが多い。シグナル配列を除去したり、細胞質のタンパクに追加したりすると、きちんと予想通りの場所に輸送される。
小器官は構成成分の混合物(脂質やタンパク)から、自発的に形成されることはなく、既存の小器官から分裂する形で作られる。小器官に適切なタンパク質が運び込まれるためには、予めその小器官を特徴づけるタンパクが存在している必要がある。同じ小器官から分裂するのではなく、小胞体から特定の成分だけを含んだ小胞が出芽して小器官になる場合もある。この方法では、生成する小器官が細胞内に一つもない状態でも、小胞体が正常なら新規に作り出すことができる。
核と細胞質間の輸送
核膜は二重の膜(脂質二重膜を2枚持つという意味)を持ち、2枚の膜を両方貫通する孔が空いているため、細胞質と核内は連続している。核膜の外膜は小胞体の膜と連続しており、したがって、核膜内腔と小胞体内腔は同じ空間である。
核膜孔には約30のタンパク質からなる核膜孔複合体(NPC:Nuclear Pore Complex)、筒状で2枚の膜をともに貫通している。核膜孔の壁に接する場所や付近の脂質二重膜は急角度に曲がる必要があり、NPCのあるドメインはこういった膜の構造を安定化する。このドメインは小胞の出芽の時に生じる膜の屈曲を安定化するタンパクと近縁である。
核膜孔の通路の壁を作るタンパクは明確な構造をとらない領域(ランダムコイル)を持ち、ゲル状の空間を作る。この通路は、小分子は自由に通過できるが分子量が大きくなるに連れ通過しづらくなり、6万Da以上になると、特別な機構を必要とする。
その特別な機構とは次の様である。輸送を受けるタンパク質が核への局在化シグナルを持ち、この配列に核内輸送受容体(インポーチン)結合する。インポーチンは核膜孔のゲルを形成するPhe-Gly反復配列に結合し、反復配列同士の相互作用を破壊して、一時的に周囲のゲルを溶かしていると推測されている。この働きにより、インポーチンが結合しているタンパクは、核膜孔を通過することができる。しかし、このままでは核内と細胞質で同じ濃度になると平衡となり、それ以上目的タンパクを核に集中することはできない。実はインポーチンは核への搬入のみし、搬出はしない。この働きにはRanという別のタンパク質が関わっている。RanはGTPを結合するタンパクで、GTPかGDPかによって構造が変化する。Ran-GTPを加水分解する酵素(GAP)は細胞質に存在し、Ran-GDPをGTPに交換する酵素(GEF)はクロマチンに結合して核内に存在する。絶えず自由エネルギーを消費し続けることで、Ran-GDPは細胞質にRan-GTPは核内に局在化している。インポーチンはRan-GTP(核内)とだけ結合し、この因子と結合しているとき目的タンパクのシグナル配列とは結合できない。よって、Ran-GDPの豊富な細胞質でのみ目的タンパクを結合し、核内に向かった後、Ran-GTPを結合して細胞質に戻る。細胞質のGEFによってGDPにされると、これを手放し次のサイクルに入る。
核内で組み立てられたリボソームのサブユニットや、mRNAなどを搬出するエクスポーチンもRan-GDP/GTP系を用いて、一方通行の輸送を実現している。エクスポーチンはRan-GTP結合型(核内)のとき積荷を結合し、細胞質でRan-GDPに変化したら積荷とRanの両方を手放し、空の状態で核に戻る。
細胞は転写調節因子の核への搬入をいろいろな方法で制御している。調節因子をリン酸化することで、構造を変化させ、内側に埋もれていたシグナル配列を露出させたり、必要なときまで調節因子は別のタンパクに結合しており、シグナルが隠蔽されているといった具合である。コレステロールを合成する酵素の活性化因子は、通常時は膜タンパクとして小胞体膜に固定されている。コレステロールが足りないと小胞輸送によりゴルジ体に移動し、そこで細胞質側のドメインが切断・遊離して役割を果たすようになる。
核ラミンというタンパクは多数結合して、核膜の下にラミナという網を作る。ラミナはクロマチンと結合し、更に他のタンパクも結合して核を頑丈にしている。細胞分裂の際にラミンのリン酸化とモータータンパク質の働きでこれらの結合は切り離され、核は崩壊する。遊離したNPCのはインポーチンと結合する。GEFはクロマチンに結合して核内のRanをGTP結合型にしていたこと。細胞分裂中の染色体にもGEFは結合して、周辺にRan-GTPが多く存在する状況を作り上げる。Ran-GTPが染色体の位置の目印になっていて、周囲に現れたインポーチンはRan-GTPを結合してNPCを離す。まずはNPCが染色体の表面に結合して、続いてラミナや小胞体膜が染色体を取り囲むことで、娘細胞の核が出来る。
ミトコンドリアと葉緑体
ミトコンドリアは2重の、葉緑体は3重の膜を持つ小器官でどちらもATPの合成に特化している。
- ミトコンドリア:膜は外側から外膜、内膜と呼ばれ、区画は膜間腔、マトリックス。
- 葉緑体:膜は外膜、内膜、チラコイド膜。区画は膜間腔、ストロマ、チラコイド内腔。
ミトコンドリアと葉緑体は自前の環状DNAをマトリックス(ストロマ)に持ち、リボソーム、転写・翻訳に必要なタンパク、tRNAなども自身で合成する。ただし、これらの小器官が必要とするタンパクの大部分は核のDNAによって司令されており、細胞質で合成された後に運び込まれる。ミトコンドリアと葉緑体は分裂機構で増える。
ミトコンドリアの外膜と内膜には様々なタンパク質転送装置があり、タンパクを適切な位置に配置する。
- TOM複合体:外膜上にあり、外膜を横切る輸送や膜タンパクの外膜への挿入を触媒する。
- TIM複合体:内膜上にあり、内膜を横切る輸送と膜タンパクの内膜への挿入を触媒する。
- SAM複合体:外膜上で膜タンパクの折りたたみを助ける。
- OXA複合体:マトリックスで合成された自前のタンパクを内膜に挿入する。
シャペロンの働き:細胞質に存在するシャペロン(hsp70)はミトコンドリアに運び込まれるタンパクに結合して、構造を解く。また、マトリックスにもミトコンドリアのhsp70が存在し、結合と遊離を繰り返すごとにポリペプチド鎖をマトリックス側へ引き込む力が働く。膜間腔はマトリックスに比べてpHが低く、濃度差が作る膜電位もマトリックスへの搬入を助ける。マトリックスにはhsp60も存在し、取り込まれたタンパクが正しく折りたたまれるのを助ける。
ミトコンドリアの外膜にはβバレル型のポリンが豊富に存在し、イオンや小分子が自由に透過できる。ポリンはTOMによって膜間腔に取り込まれた後、SAM複合体によって膜に挿入される。
膜間腔に向かうタンパク質のほとんどはマトリックスへの輸送シグナルを持ち、TIM23によってマトリックスへ引き込まれる。しかし、輸送シグナルのすぐ次に輸送停止シグナルを持つことで、N末端だけマトリックスへ出た状態で輸送が止まる。次にプロテアーゼによって膜貫通部分と切断されて、膜間腔に遊離するのだ。
TIM22は膜間腔から内膜に膜タンパクを直接埋め込むが、一部の内膜タンパクはTIM23によって完全にマトリックスに運ばれてから、OXAによって内膜に埋め込まれることがある。OXAはもともとマトリックスで合成されるミトコンドリア産のタンパクを内膜に埋め込むためのもので、この経路を用いる核由来のタンパクは少数である。
葉緑体へのタンパクの搬入はミトコンドリアの仕組みとよく似ており、タンパクのN末端に葉緑体の外膜を通過するシグナルがある。輸送複合体はミトコンドリアのものと機能は似ているが、異なる系譜のタンパクからなる。
葉緑体には外膜、内膜の更に内側にチラコイド膜があり、チラコイドに向かうタンパクには葉緑体行シグナルに続いて、チラコイド行シグナルがある。これらのタンパクはストロマまで運ばれた後、葉緑体行シグナルが切り取られて、その次のチラコイド行シグナルが露出する。ストロマからチラコイドへの輸送には少なくとも4つの経路が存在し、異なる輸送体によって触媒される。中には、無触媒でチラコイド膜へ埋め込まれるタンパクもある。
ペルオキシソーム
ペルオキシソームは一枚の膜に囲まれた小器官で、独自DNAを持たない。したがって、ペルオキシソームが必要とするタンパクはすべて核のDNAによって指令されており、細胞質から膜を横切って直接取り込まれるか、小胞体から小胞輸送を介して運び込まれる。ペルオキシソームはその名の通り、分子状酸素から過酸化水素を合成し、これを用いて有害な物質を酸化(解毒)する。また、脂肪酸のβ酸化(炭素鎖を炭素2個分づつ切り取りアセチルCoAを合成する反応)はペルオキシソームで行われる。哺乳類ではミトコンドリアもこの反応を行うが、酵母や植物細胞などではペルオキシソームのみで行われる。
新しいペルオキシソームは分裂機構でも、小胞体から出芽することでも生成される。どちらの場合でも、膜にはペルオキシンと呼ばれる輸送装置を持ち、ペルオキシソーム行シグナル(Ser-Lys-Leu-C末端)を持つタンパクを取り込む。小胞体から出芽したばかりのリポソームには、まだペルオキシソームらしさが無いが、ペルオキシンが順次必要なタンパクを取り込んでいくことで、徐々にペルオキシソームになる。ペルオキシンのタンパク輸送機構はミトコンドリアや葉緑体のものとは大きく異なり、孔の大きさが輸送分子に応じて変化する仕組みになっている。細胞質のシャペロンがタンパクを解く必要がなく、複合体でさえそのままの大きさで取り込む。